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モンブラン
¥1,980
『モンブラン』 著者 ファビオ・ヴィスコリオージ 訳者 大林 薫 四六判 242ページ 定価 1,800円+税 ISBN 978-4-9908091-7-1 2018年7月20日初版第一刷発行 “ポケットに入れて、背中にかついで、心に思って、僕はモンブランを連れていく。” 突然の大惨事から10年以上を経て 記録と、記憶と、創作をからませて綴った 心の再生の物語。 1999年3月、アルプス最高峰モンブランのふもと、フランスとイタリアをつなぐトンネルで火災事故が発生。著者ファビオ・ヴィスコリオージの両親は、そのモンブラントンネル火災事故で帰らぬ人となったのです。突然の大惨事から10年以上を経て、ようやく書きあげた当時の衝撃、両親の思い出、家族の記憶……。著者自身の心の再生を綴った物語です。(原書の刊行は2011年) 突然、事故や災害の犠牲者、被害者遺族になった。愛する人々の死を信じられないまま、気持ちの整理がつかないまま、時間だけが過ぎてゆく。怒りや悲しみはぶつける先が定まらないまま、消化不良状態でからだのどこかに残っている……。 ヴィスコリオージは、なすすべもなくただ目の前のさまざまなことをやり過ごしきた、あの時、この時を綴りました。 忘れたようで忘れられない、癒えたと思っていた傷がまだ疼く。心のどこにも片づけることのできない思いを抱えている人に、読んでいただきたい一冊。 装幀家、司修氏による表紙・カバー・帯デザインです。 【著者】 ファビオ・ヴィスコリオージ Fabio Viscogliosi 1965年、フランス・リヨン市郊外ウランに生まれる。リヨン在住。小説家として本書を含む3作品を出版するほか、グラフィック・アーティスト、漫画家、ミュージシャンとしても活躍している。1990年代初めから現在まで漫画本、絵本をコンスタントに出版。リヨン現代美術館(2009年)、モントルイユ公立図書館(2016年)等各地で作品展を行っている。音楽活動では2002年と2007年に自身のソロアルバムをリリースしたほか、他ミュージシャンとのコラボレーションや映画音楽、朗読BGMなど幅広く手がけている。 【訳者】 大林 薫 おおばやし かおり 青山学院大学フランス文学科卒業。フランス語翻訳家。訳書にコリーヌ・ルパージュ著『原発大国の真実 福島、フランス、ヨーロッパ、ポスト原発社会に向けて』(長崎出版/2012年)、共訳書にアドニス著『暴力とイスラーム 政治・女性・詩人』(エディション・エフ/2017年)、モーリス・ルブラン著『怪盗紳士アルセーヌ・ルパン 奇岩城』(角川つばさ文庫/2016年)などがある。 【モンブラントンネル火災事故】 「モンブラントンネル火災事故」は、1999年3月24日の火災発生から26日に鎮火するまでの3日間の惨事を指す呼称である。3月24日午前11時頃、トンネル内を通過中の冷蔵貨物トレーラーが燃料漏れにより爆発、たちまちトンネル内に火災が拡大する。激しい煙と高温のため多くの被害者はトンネル内シェルターにたどり着くことすらできず、結果、死者が39名に及ぶ大惨事となった。トンネルは事故後閉鎖され、修復と設備増強の工事、管理指揮系統の全面見直しと再構築を行い、約3年後に再び開通した。 事故現場のトンネル入り口付近には、事故の犠牲者の名を刻んだ慰霊碑が建立されている。
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核エネルギー大国フランス 「統治」の視座から
¥2,970
著者 セジン・トプシュ 訳者 斎藤かぐみ 解説 神里達博 A5判 284ページ 定価:2,700円+税 ISBN978-4-909819-05-5 2019年6月30日初版第一刷発行 《本書は世界最大の核利用国フランスにおける原子力とデモクラシーとのつながり、いやむしろ落差に関する論考である。フランスの核事業複合体に対する公共的・社会的な批判活動、その変遷、高揚と低迷、再起を扱い、それが過去数十年にわたり事業者・国家・規制機関に対して、どのような問題を提起したかも視野に入れている。(中略)核事業をめぐる議論は著しい鎮静化の段階に入っていた。90年代終盤から〔核事業〕推進勢力は、気候変動に立ち向かう環境派というイメージを巧妙に打ち出しており、この新たなイメージ戦略が大きく効いていたのである。》(本書p.14-15、「日本語のための序章」より) 科学史家・科学社会学者セジン・トプシュはフランス国立学術研究センター(CNRS)研究員。本書の原著書は、2011 年 3 月以前にトプシュが完成させていた博士論文が骨子となっています。出版へ向け最終段階に入っていたそのときに、東日本大震災が起こり、福島第一原発事故が発生しました。トプシュは日本にかんする論考をさらに加筆し、2013 年、スイユ社から出版されました。 本書日本語版は、かねてからこの分野に関心をもつ翻訳家、斎藤かぐみさんの熱意が出版の実現を果たしたといえます。論文とはいえ、広く一般の人びとにも読まれるよう、文体や訳語に読みやすさを考慮しました。 さらに、 千葉大学教授で科学技術社会論の神里達博さんが、本書の内容を私たちの身辺にぐっと近づける解説を執筆してくださいました。 私たちは、あの未曽有の惨事を「無かったこと」にしようとしてないでしょうか? 五輪や万博があの最悪の人災を帳消しにできるとでも? エディション・エフは、フランスの核事業推進史とそれに対する批判活動・反対運動の軌跡をたどり検証した本書は、世界唯一の被爆国でありながら核保有大国にすり寄り、国土を原発列島化させているこの国の人びとにとって重要な参考文献になると考え、出版を決めました。 人間の命が代々継がれていくものである以上、広島も長崎もまだ終わってはいません。第五福竜丸も、ビキニ環礁も、チェルノブイリもけっして終わることはありません。福島は、言うまでもありません。 【目次】 日本語版のための序章 序論 第1部 1970年代の強硬な核事業――抗議活動を意に介さない国威発揚 第1章 1974年のメスメール計画の誕生 1.石油危機以前の大きな胎動 2.大量消費社会の「安価なエネルギー」なる触れこみ 3.「エネルギー自立」の実態 4.リスク社会の創出へ 第2章 抗議するフランス――原子力への幻滅 1.草創期のアクター・ネットワーク――メスメール計画以前 2.オイルショックから、原発ショックへ 3.科学者たちの批判活動 第3章 エコロジスト活動家たちの監視と馴致 1.穴だらけの公衆意見調査 2.適正化は後づけで 3.経済による統治 4.情報提供および秘密化による統治 5.社会科学の専門要員 6.世論調査による統治 7.批判活動に対する統治の「新たな精神」 第2部 チェルノブィリに続く10年間――専門評価と透明化へ、誘導された批判活動 第4章 1986年4月26日の直後――秘密化による統治 1.「国境で止まったプルーム」 2.秘密主義の規範化/常態視 第5章 衣替えした抗議活動 1.チェルノブィリ後の推進体制 2.批判活動の専門科学化――CRIIRADとACROの誕生 3.対抗調査というアクション 4.「透明化」の運用――ラ・アーグ情報委の事例 第6章 ニュークスピーク――用語による統治 1.端緒は冷戦期 2.神聖化から脱神聖化へ 3.チェルノブィリ後の核用語 第3部 1990年代以降――「参加」と「環境主義」の至上命令 第7章 汚染地における「参加型デモクラシー」 1.チェルノブィリという「人類規模の衝撃」 2.エートス・プロジェクト――汚染地での暮らし方、教えます 3.事故後管理の新たなパラダイム 4.そこに異議あり 第8章 原発大国フランスにおける「専門式デモクラシー」 1.ラ・アーグの白血病問題 2.旧ウラン鉱山の汚染問題 3.「グリーン」な核エネルギー vs 「脱核ネット」 4.欧州新型炉に関する公衆討議 第9章 ニジェールにおけるアレヴァのウラン事業 1.ニジェールの逆説 2.立ち上がったアーリット市民社会 3.CRIIRADと「シェルパ」の現地調査 4.フランスで論争が再燃 5.「アギル・インマン」と鉱山会社の間の緊張 6.「植民地化やめろ!」 7.排除されるニジェールの社会運動 終章 訳者あとがき 解説 【著者】セジン・トプシュ(Sezin Topçu) 科学史家・科学社会学者、国立学術研究センター(CNRS)研究員、社会科学高等研究院(EHESS)マルセル・モース研究所社会運動研究センター所員。ボスポラス大学卒業後、ストラスブール大学を経て、社会科学高等研究院(EHSS)で博士号取得。技術分野・医療分野におけるイノベーションの諸々の統治形態を研究テーマとする。とりわけ注目している現象が核エネルギー化および医療化、批判勢力として注目しているのが環境運動およびフェミニスト運動、研究対象とする国がフランスおよびトルコである。 【訳者】斎藤かぐみ(さいとう かぐみ) Institut Européen des Hautes Études Internationales 修了(学位取得論文« Le droit de propriété intellectuelle. Les enjeux économiques et commerciaux de la technologie »)。株式会社東芝を退職後、『ル・モンド・ディプロマティーク』日本語版を創刊、2011年末まで発行人を務める。国際基督教大学Othmer記念科学教授職付き助手(STS担当、非常勤)を経て、フランス語講師(非常勤)。訳書に『力の論理を超えて』(共編訳/NTT出版/2003年)、オリヴィエ・ロワ著『現代中央アジア』(白水社/2007年)、アンヌ=マリ・ティエス著『国民アイデンティティの創造』(共訳/勁草書房/2013年)他。 【解説】神里達博(かみさと たつひろ) 東京大学工学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。三菱化学生命科学研究所、科学技術振興機構、東大・阪大特任准教授などを経て、現在、千葉大学国際教養学部教授。朝日新聞客員論説委員、阪大客員教授等を兼任。博士(工学)、専門は科学史、科学技術社会論。著書に『食品リスク――BSEとモダニティ』(弘文堂/2005年)、『文明探偵の冒険――今は時代の節目なのか』(講談社現代新書/2015年)、『ブロックチェーンという世界革命』(河出書房新社/2019年)、共著に『没落する文明』(集英社新書/2012年)などがある。
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神(イマーナ)の影 ルワンダへの旅―記憶・証言・物語
¥2,200
著者 ヴェロニク・タジョ 訳者 村田はるせ 四六判 216ページ 定価:2,000円+税 ISBN978-4-909819-06-2 2019年10月25日初版第一刷発行 【【【!!!最新ニュース!!!】】】 【著者ヴェロニク・タジョさん来日決定】 【【【!!!2023年3月初め!!!】】】 もともと2020年の夏に予定されていた本書の著者ヴェロニク・タジョさんの来日。新型コロナウイルスの大流行という厄災が世界中を覆って、やむなく中止、無期限延期となっていました。その後、状況に鑑み、来日のチャンスが模索されてきましたが、ようやく、ようやく、ようやく!!!叶います!!! 嬉しいです。嬉しい! ヴェロニク・タジョさんに会える! 東京での講演、京都での「囲む会」を企画しています。SNS等で告知していきます。どうぞご期待ください。 ※来日記念講演(東京大学)およびお話し会(堺町画廊)のイベントは終了しました。 * 【【【!祝!】】】 【ヴェロニク・タジョさん フランス文化通信省より芸術文化勲章コマンドゥールを受章】 2021年秋、とても喜ばしいニュースが伝わってきました。 『神(イマーナ)の影』著者のヴェロニク・タジョさんにフランスから芸術文化勲章が授章されたのです。コートジヴォワール人を父に、フランス人を母にもつタジョさんはつねにフランス語で発信し、作品を創り続けてきました。その功績をたたえる授章。ほんとうに素晴しいことです。彼女の仕事を評価するフランスにも拍手。 エディション・エフも、ささやかですがこれを祝して単行本の帯を新調しました。 画像を切り替えてご覧ください。 * 《わたしはある前提とともに出発しようとしていた。それは、起こったことはわたしたちすべての人間にかかわりがある、というものだ。ルワンダのジェノサイドは、アフリカの黒い中心で孤立し、忘れ去られた一国民だけの問題ではない。大騒ぎし、ただ激高したあげくにルワンダを忘れるのは、片目を失うこと、声を失うこと、ハンディを負うことだ。暗闇を、延ばした両手でさぐり、ふいに未来に衝突しないよう歩くようなものだ。》(本書p.10) ヴェロニク・タジョはコートジヴォワール人の作家、絵本作家、児童文学研究家。母の国フランスで生まれ、父の国コートジヴォワールで育ち、パリのソルボンヌ大学で学び、コートジヴォワールのアビジャン大学で教鞭をとり、南アフリカ共和国のヴィットヴァターズランド大学でフランス語部門の責任者を務めました。絵本作家として絵本を多数世に出し、そのなかには自ら絵とテキストの両方を手がけた作品もあります。児童文学研究家としては、アフリカの子どもたちに母語で語り継がれる自分の国の物語を残すため、マリやベナン、チャドやルワンダで絵本制作のワークショップを展開もしました。 長い植民地支配から抜け出した国々にとって、自分たちの歴史を読み直すため、自分たちの物語を紡ぎなおすためには、旧宗主国から与えられる書物だけでは不十分なはずです。「わたしは何者か」を自問するためには、自分たちの言葉で考え、読み、書く必要があったでしょう。そしてそれを子どもたちが受け継いでいく必要があったでしょう。 こうした背景から、タジョは、アフリカの子どもたちのための絵本づくりに打ち込んだのでした。 タジョにとって1994年にルワンダで起きた民族対立・大量虐殺は目を逸らすことのできないとてつもない出来事でした。タジョ自身の故国コートジヴォワールにおいても、国民間の対立や外国人排斥の動きはすでにあり、他人事(ひとごと)と済ませられない危機感をもって、1998年、タジョはルワンダへ向かったのでした。 2度のルワンダ訪問を終え、その見聞をもとに考察し、紡ぎ出した物語をタジョは2000年、フランスで出版しました。L'Ombre d'Imana(イマーナの影)。かねてよりアフリカの児童文学事情を研究し、ヴェロニク・タジョとも接触を図っていた村田はるせさんがこの本に注目し、研究対象として読み込んでいました。 その村田さんが、あるとき大阪でアフリカ絵本の展示と読み聞かせの会を開くということを耳にし、エディション・エフはいそいそと出かけ、村田さんにお話をうかがうことができたのでした。 人類史上にはけっして消すことのできない苛酷な事件が、悲しいことに幾度も起こっています。ルワンダのジェノサイドは間違いなくそのひとつに数えられます。数多くの検証の書、贖罪の声を集めたルポルタージュなどが出版され、日本語での出版もされています。それでも、このことについてわたしたちはやはり知らなすぎるのではないか、センセーショナルな一事件としてのみ扱ってきていないか。エディション・エフは、2000年刊行の原書ながら、いまこそ本書を広く共有したいと考えました。負ってしまった深い傷はなかなか癒えないこと、憎しみは何も生まないことを知り、安易にヘイトスピーチに走る現在の風潮に一石を投じたいのです。もう一度ルワンダを見直すことで、私たち自身の社会にかんする考察にもつながると思い、この本を世に送り出します。 『神(イマーナ)の影 ルワンダへの旅―記憶・証言・物語』。 本書のカバーの写真は、訳者の村田はるせさんがルワンダで撮影された写真を使わせていただきました。 【目次】 初めてのルワンダ 南アフリカ、ダーバンにて――海岸沿いの駐車場で出会った男/ヨハネスブルグからパリへ/パリ経由でブリュッセルへ/サベナ五六五便に乗る/キガリの街を歩く/ニャマタの教会/展示された武器/ンタラマの教会/トニア・ロカテッリ/ブタレへの道/王都ニャンザ/ギタラマを通過する/ビュンバにて――クブウィマナ一家訪問/キガリの弁護士/途方にくれる男/小説家/コンソラートに起きたこと/プロジェクトリーダー/仮面を蒐集する男/ジャーナリスト/キガリ、アマホロ・スタジアムに近いミギナ界隈にて――ネリーのこと/キガリで耳にした物語/最初の帰還 死者たちの怒り 彼の声 アナスターズとアナスタジー そのとき、そこにいなかった人々 カール/セトとヴァランティーヌ ルワンダ再訪 サベナ五六五便/キガリ――キミフルラ、コテ・カディヤックにて/キチュキル・コミューン内のカガラマ・セクターにて/〝ツチにしか見えない〟ザイール人の女/ノングウェでの巡回軍法会議――旧政府軍少尉エドゥアール・ムジャンベレの裁判/牧師/リリサの刑務所、七千人の囚人/死刑囚・終身刑囚ブロック/ブロック一五――二百五十三人の女性囚/フロデュアル、殺人者となった若い農夫/ジョゼフィーヌ/最高の七人/フツ・パワー〝フツの十戒〟/ルワンダ南西部、キベホ・キャンプで起きたこと――一九九五年四月二二日/シスター・アガト/二度めの帰還 訳注・参考文献 日本語版のためのあとがき ヴェロニク・タジョ 訳者あとがき 【著者】ヴェロニク・タジョ Véronique TADJO コートジヴォワール人の父とフランス人の母のあいだに1955年パリに生まれ、父の国の経済首都アビジャンで育つ。詩人、小説家、画家、児童文学作家・研究家。現在は拠点をロンドンとアビジャンに置く。パリのソルボンヌ大学でアメリカ黒人文化を研究し、博士論文を提出。1983年に詩集Laterite(ラテライト)が文化技術協力機構文学賞を受け、以降作家として活動する。そのかたわら、コートジヴォワールのアビジャン大学で教鞭をとり、2007~2015年には南アフリカ共和国のヴィットヴァターズランド大学でフランス語部門の責任者を務めた。児童文学作家としては自ら挿絵を描くこともあり、マリやベナン、チャド、ルワンダなどで絵本制作のワークショップを開催し、アフリカの児童文学発展に貢献した。 最新の小説作品は2017年刊行のEn compagnie des hommes(人間たちとともに)。邦訳作品は本書『神(イマーナ)の影』のほかに絵本『アヤンダ おおきくなりたくなかったおんなのこ』(村田はるせ訳、風濤社、2018年)がある。 【訳者】村田はるせ Haruse MURATA 東京外国語大学地域文化研究科博士後期課程修了(博士(学術))。アフリカ文学研究者。研究対象はサハラ以南アフリカのフランス語を公用語とする国々の文学。西アフリカで出版された絵本の紹介と展示も全国で展開している。アフリカについて学ぶ「クスクス読書会」主宰。著書に『アフリカ学事典』(共著/昭和堂/2015年)。訳書に『アヤンダ おおきくなりたくなかったおんなのこ』(ヴェロニク・タジョ文、ベルトラン・デュボワ絵/風濤社/2018年)。
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暴力とイスラーム 政治・女性・詩人
¥2,640
著者 アドニス 聞き手 フーリア・アブドゥルアヒド 監訳 片岡幸彦 翻訳 伊藤直子・井形美代子・斎藤かぐみ・大林薫 四六判 約250ページ 定価:2,400円+税 ISBN978-4-9908091-3-3 2017年6月1日初版第一刷発行 現代アラブ世界を代表する詩人アドニスと、精神分析学者フーリア・アブドゥルアヒドの対談。イスラームとアラブの諸問題を政治を切り口に、コーランの文言や女性の地位、詩や芸術の存在意義に至るまで語り尽くす。ムスリム(イスラーム信徒)とアラブ人と彼らを取り巻くすべての人びとに突きつける渾身のメッセージ。 “イスラームに内在する暴力がムスリムたちにどれほど影響を及ぼしているか。知性もさることながら、人間性そのものさえ損ないかねないほどなのです。” “イスラームは男女両性の在り方を歪曲し、愛を否定し、女性的自我と男性的他者との関わりを、つまり、あらゆる人間関係を捻じ曲げてしまったのです。” “彼らはただひと筋に信じる以外、ないのです。こうして暴力は神聖化され、公称の「歴史」もまた、神や預言者によって創造されたことになりました。”(本文より) 【目次】 日本語版への序文 止むことなく破壊は続く 公称の「歴史」を読み直す イスラームの成立とその精神 コーランには何が書かれているのか 女性、女性性、女性的なるもの 「イスラム国」を衝き動かすもの アラブに執着し続けるヨーロッパ 芸術と宗教、神話と宗教 詩は言葉と戒律の狭間で 真正アラブ・イスラーム史の復権のために 「記憶」から人々を救うために 結語 本質主義に抗して 【著者紹介】 アドニス 1930年シリア北部ラタキア県生まれ。現代アラブ世界を代表する詩人。本名はアリ・アフマド・サイード・イスビル。父親の教えでコーランはもとより幼少時から詩に親しむ。ダマスカス大学で哲学を専攻。1955年シリア国民党弾圧にともない、党員とみなされて6か月間投獄される。釈放後レバノンへ移住し、ベイルート大学で博士号取得。1960~61年のフランス留学を経て、ベイルート大学で教鞭を執る。1980年、フランスへ亡命、在住。アラビア語で詩を書き続け、精力的に詩集を発表、各国語に翻訳されている。 フーリア・アブドゥルアヒド パリ第七(Denis Diderot)大学准教授、精神分析学者。専門分野における自身の著作のほか、アラビア語からフランス語への翻訳者として主にアドニスの著書の翻訳を多数手がける。
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ぼくのがっかりした話
¥1,540
シリーズ再生の文学 『ぼくのがっかりした話』 ■■■英明企画編集の本■■■ 著者 セルジョ・トーファノ 訳者 橋本勝雄 新書判 160ページ 定価 1,400円+税 ISBN 978-4-909151-31-5 2021年8月30日 発行 【帯の言葉】 おなかをこわして肉食をやめた人食い鬼、没落したアラジン、赤ずきんの家で下男として働く狼、不眠症に悩む眠れる森の美女……。イタリアの鬼才が贈るユーモアとペーソスに満ちたがっかりの世界! * いったいこれはどんな物語なのでしょう? セルジョ・トーファノって誰? 訳者の橋本勝雄氏による詳しい「訳者あとがき」から引用します。 《セルジョ・トーファノ『ぼくのがっかりした話』は、いまから百年ほどまえ、一九一七年九月三〇日から一〇月二八日まで、五回にわたって雑誌『コリエーレ・デイ・ピッコリ』に掲載されました。『コリエーレ・デイ・ピッコリ』は一九〇八年に創刊され、一九九六年まで八八年間にわたってイタリアの子どもたちに親しまれた絵入り週刊誌です。》(128ページ) なんと、100年前に書かれた物語ですと。 しかも「赤ずきんの家で下男として働く狼、不眠症に悩む眠れる森の美女」だなんて、堂々たる古典名作童話を揶揄しまくっているとは! 面白そうでしょ! ぜひぜひお読みください! * 物語の冒頭です。 《ぼくが小学校の卒業試験に三回めの落第をしてしまったので、気の毒な父さんと母さんは、このままぼくに勉強を続けさせるかどうか迷ってしまった。(中略) 「それは時間のむだですよ」ぼくをよく知っている先生は、はっきり言った。「わたしの言うことをお聞きなさい。この子は頭が悪すぎるんです」 (中略) たくさんの家庭教師がやってきた。その数なんと、一か月で一二人。(中略)そしてみんな、口をそろえて父さんに言った。 「時間のむだですよ。まあ、お聞きなさい。この子は頭が悪すぎます!」》(5~6ページ/第一章 はじめに、父さんと母さんが、がっかりした話が語られる より) ……ひどくない?(苦笑) 「頭が悪すぎる」と散々な言われようをしている「ぼく」、主人公のベンヴェヌート少年。それでも13人めの家庭教師としてやってきたパルミーロの語る話に魅せられて、おとぎ話の世界へ出発する……。 ところが、旅先で出会うのはどれもこれも「がっかりする話」。 《赤ずきんの家をあとにしたぼくらは、あまりにもつらい光景を目にして、なんともいえないほどがっかりし、そのうえおなかがすいていた。》(98ページ/第九章 七つめのがっかり より) * 奥付に記載されている著者情報です。 【著者】 セルジョ・トーファノ Sergio Tofano (1886-1973) イタリアの俳優、演出家、挿絵画家、漫画家。1909年に役者デビュー、複数の劇団の共同座長を務め、国立演劇学校で後進の指導にあたるなど、戦前から戦後まで舞台、映画、テレビで活躍。洗練されたユーモアを特徴とする「ブリッランテ」役を得意とした。STOのペンネームで挿絵を手がけ、1917年に雑誌『コリエーレ・デイ・ピッコリ』に発表した漫画『ボナヴェントゥーラさんの冒険』のシリーズが大人気となる。『ぼくのがっかりした話』は、カルロ・コッローディからジャンニ・ロダーリに至るファンタジー文学の系譜に属する貴重な作品。 【訳者】 橋本勝雄 (はしもと かつお) 1967年生まれ。京都大学文学部卒業、同大学大学院博士後期課程単位取得退学。現在、京都外国語大学教授。訳書に『イタリア語の起源――歴史文法入門』(パトータ)、『イタリア20世紀史――熱狂と恐怖と希望の100年』(コラリーツィ、共訳)、『プラハの墓地』(エーコ)〈第2回須賀敦子翻訳賞受賞〉、『鏡の前のチェス盤』(ボンテンペッリ、トーファノ画)、『19世紀イタリア怪奇幻想短編集』などがある。