京都の小さな出版社です。一般書、絵本を出版しています。「手と心の記憶に残る本づくり」を心がけ、ほんとうに読みたい人のもとへ届くように、あれこれ考えながらつくっています。
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誰が最初に考えたのか、本のかたちはとてもよくできていると思います。ページをめくるたび、そこに新たな発見があったり思わぬ展開が待っていたりします。小さな四角い紙の向こう側に、想像の世界を自由に広げることもできます。
指先で紙端をもち、ページをめくる。単純な動作の繰り返しが、本を読む人に無限の歓びや感動、興奮や(内容によっては)怒りをもたらすのだから、不思議なものです。
片手で本の背を支え、もう片方の手で表紙を開き、指先で一枚ずつページをめくっていく。
本の厚み、背の硬さ、カバーの光沢、本文ページのざらつき。
本は、読む者の掌や指先にその感触を残します。
内容の素晴しい本は、当然ながら心に深く刻まれます。
読者の手と心の両方に、しっかりと記憶される。
エディション・エフは、そうした本づくりに努めます。
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fraternitéという言葉があります。私の好きな言葉のひとつです。
フランス共和国の標語「自由・平等・博愛」は広く知られていますが、その「博愛」にあたるのがこのfraternitéです。日本語では「博愛」という訳語をあてていますが、「博愛」というと、あまねく万人を分け隔てなく愛する、という意味ですね。ちょっと高尚で、人格者な感じです。
fraternitéは「兄弟愛」を意味します。兄弟愛は兄弟姉妹間の愛情のこと、といえばそのとおりなんですが、自由・平等と並んでこの語が掲げられているわけは「きょうだいを愛するように共同体の構成員を愛せよ」ということだと思います。誰をも等しく愛するというよりは、(目に見える範囲でいいから)隣人や地域の友人、同僚、身近な仲間たちを愛する(よいつきあいをする)ことによって、互いの信頼を高める。
自分の所属する村や町などの共同体には血縁ではない他人もいて、無視はできません。いっそ親子愛や夫婦愛を超越した愛情でつながることができれば素晴しい。
エディション・エフのFには、fraternitéのもつこのような意味を込めました。
ひとりひとりが、共同体内の他者に対してもちたい、兄弟愛。
エディション・エフは、エディション・エフのつくった本を手にしてくださった人たちのあいだに、温かな共感が生まれること願って、本づくりにいそしみたいと考えています。